生きようとして
かつて散らばってしまったYESのための音素をひろいあつめ
生きようとして
コンビニで290円のおにぎりセットと660円のエロ雑誌を買い
生きようとして
せんずる
生きようとして
求人票に記載された就業時間の欄の備考の多さに眉をひそめ
生きようとして
隣の窓口に座った中年男の崖っぷち話に少し気を楽にして
生きようとして
一枚の求人票を片手にパチンコへ行き 五千円スって家へと帰る
ご先祖さまは俺に随分前の机から順繰りにプリントを送ってくだされた
長い設問には裏移りした宿業やら言うマーカーのチェックが残っていて
俺は仏壇の前に座り般若心経を意味も分からず唱え続けた
線香を何本あげど選考には通らず
私欲は滅ぼしますと何度誓えど職には就けない
馬鹿野郎や畜生の恨み言を吐く怒りもなく
ふやけたひらがなのルビが入った曹洞宗の経文を扇ぎ
せめて風をおこして蝋燭の火を一気に掃き消す
なぜ生きようとして 生きねばならないのか
飯を鱈腹食って派手にげっぷを吐き
朝の5時に布団に入り10時間熟睡する事がいけない事なのか
働いたら負けかなと思い
親の脛が砂色のお骨になるまでしゃぶりつくして
誰も居ない家の隅の暗がりで即身仏となりながら
アイマスのコンテンツをフヒヒと笑いダウンロードする事の
何がいけないのか
それにはご先祖さまも答えてはくれないのだ
すべては俺に失望する俺がひそやかな声で命じているのだった
生きなさいと
俺様よ 一体生きるとは何なんですか
なぜ生きなきゃいけないんですか
俺は新しい履歴書と格闘しながら俺を生暖かい眼差しで見下ろす俺様に問うた
生きるとはダイワハウスで家を新築することである
仁星の重たい屋根をまっすぐな紅帝の柱で支えることである
貴様の炎星の屋根は穴だらけで雨漏りの音で響きかえっておる
貴様の柱は緋帝の軍に侵されすでに白蟻が涌き腐り果てておる
リフォームなどと優雅な事を言ってビフォーアフターを見ている場合ではない
まっさらに切り出した太く頑丈な杉の柱に支えられてこそ
大きな真空外張り断熱の家は震度六強の地震にも耐えられるのだ
だからとりあえず貴様は働け
柱を建て替えたならば自ずと雨ざらしも終わり新しい屋根の建築も進むであろう
フォースとともにあらんことを
きちがいの俺はいなくなって阿呆の俺だけが残った
目の前には一向に視野の広がらぬ履歴書の深い渓谷があり
背には広大な平原に浮かぶ小さな泉で
全裸の二次元美少女が頬を赤らめ股を洗っていた
俺は耳を澄ませた
屋根を支える建材は少なく
反対に降り始める肉欲の雨が磯野野球やろうぜと滴り落ちる
しかし俺は耳を澄ませた
そこには誰の叱責もなく 誰のあえぎも聴こえはしない
俺は履歴書の職歴欄に
真新しいボールペンのインクで改ざんした経歴を追加した
多少の不正くらいご先祖さまも目こぼししてくださるに違いない
完成した履歴書は多少改造されどやはり俺の生きた道だった
思いっきり息を吹きかけると
その二枚折りの人生はぺらりと軽薄な音を立て浮き上がり屋根となって
浮き上がった一瞬に詰め込んだなけなしの肯定は細い柱となった
屋根には補修しきれない空白期間の穴が寒々しく穿たれてあった
見下ろせばただの暗闇でしかないが
しかしそれは下から見あげれば時折星空が見えるのだった
クリアファイルに何度目かの新しい住まいを差し込んだあとで
そんなもんだ人生なんてと
よく分からない事をそう呟いてから
その意味について改めて俺は考え始めた
2013年6月13日木曜日
2013年6月12日水曜日
剃髪の夢(四)
べつに出家したいわけじゃない
/
空々しく
舎利禮文や般若心経を朝な夕なに唱え
カラスや野良猫に
自分が出したゴミ袋をむざんに破られ
使用済みのティッシュやケーブルテレビの督促状を
路上にばら撒かれても
いいですね
生きてますねと
ほんにゃり笑えるよう剃髪したい
剃り落とした生臭い髪には
さだめて甘苦いあの我執や
破裂せぬまま枯れしぼんだ かつての憤怒が
俗世との名残を惜しんで
小椋佳バージョンの『俺たちの旅』を歌うだろう
夢の坂道は木の葉模様の石畳
でもふつうに畳の上で剃髪したい
切腹する時みたく白装束を纏いたい
使わないけど脇差とか腰に差していたい
剃髪した後はなるべく優しくありたい
パック詰めの豚こま肉に
がんばったねと声をかけ
サンマの蒲焼缶に手を合わせ
多少の涙をこぼしたり こぼさなかったり
それでいて
出されたものは綺麗にたいらげ
いただきますとごちそうさまの二つで
すべての罪をまぬがれて
まこと善くあったと胸を張りたい
剃髪した後はおだやかに生きたい
むかしの話を楽しみつつ語り
つらい記憶でさえ
そんな時代もあったねと
熱い玄米茶で口の粘膜を溶解させながら
角が鈍くなってゆく自分を
成長したと誉めてやりたい
でも
剃髪した次の朝は
きっと何かが寒い
頭が寒い
とかいった鬆の入ったオチじゃなく
枯れた大根みたいにスカスカになっているんだ
脳みそを煮凝らせた あのやかましき日々の
何もかもが遠くなって
ふわふわとその辺を漂うだけの
抽象画みたいな景色のなかで
真っ白になって暮らしてゆくんだ
ちょっとずつ
ちょっとずつ誰や何やに手を振りながら
自分じゃそれに気づきもしないで
/
南無帰依仏 南無帰依法
剃るべきか 剃らざるべきか
そるべ ゆらゆらとそるべ
釈尊よ
どうかお教えください
『――縁なき衆生よ
諦めたらそこで試合終了ですよ』
安西先生!
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