2013年6月13日木曜日

生きようとして
かつて散らばってしまったYESのための音素をひろいあつめ
生きようとして
コンビニで290円のおにぎりセットと660円のエロ雑誌を買い
生きようとして
せんずる

生きようとして
求人票に記載された就業時間の欄の備考の多さに眉をひそめ
生きようとして
隣の窓口に座った中年男の崖っぷち話に少し気を楽にして
生きようとして
一枚の求人票を片手にパチンコへ行き 五千円スって家へと帰る

ご先祖さまは俺に随分前の机から順繰りにプリントを送ってくだされた
長い設問には裏移りした宿業やら言うマーカーのチェックが残っていて
俺は仏壇の前に座り般若心経を意味も分からず唱え続けた
線香を何本あげど選考には通らず
私欲は滅ぼしますと何度誓えど職には就けない
馬鹿野郎や畜生の恨み言を吐く怒りもなく
ふやけたひらがなのルビが入った曹洞宗の経文を扇ぎ
せめて風をおこして蝋燭の火を一気に掃き消す

なぜ生きようとして 生きねばならないのか
飯を鱈腹食って派手にげっぷを吐き
朝の5時に布団に入り10時間熟睡する事がいけない事なのか
働いたら負けかなと思い
親の脛が砂色のお骨になるまでしゃぶりつくして
誰も居ない家の隅の暗がりで即身仏となりながら
アイマスのコンテンツをフヒヒと笑いダウンロードする事の
何がいけないのか
それにはご先祖さまも答えてはくれないのだ

すべては俺に失望する俺がひそやかな声で命じているのだった
生きなさいと
俺様よ 一体生きるとは何なんですか
なぜ生きなきゃいけないんですか
俺は新しい履歴書と格闘しながら俺を生暖かい眼差しで見下ろす俺様に問うた

生きるとはダイワハウスで家を新築することである
仁星の重たい屋根をまっすぐな紅帝の柱で支えることである
貴様の炎星の屋根は穴だらけで雨漏りの音で響きかえっておる
貴様の柱は緋帝の軍に侵されすでに白蟻が涌き腐り果てておる
リフォームなどと優雅な事を言ってビフォーアフターを見ている場合ではない
まっさらに切り出した太く頑丈な杉の柱に支えられてこそ
大きな真空外張り断熱の家は震度六強の地震にも耐えられるのだ
だからとりあえず貴様は働け
柱を建て替えたならば自ずと雨ざらしも終わり新しい屋根の建築も進むであろう
フォースとともにあらんことを

きちがいの俺はいなくなって阿呆の俺だけが残った
目の前には一向に視野の広がらぬ履歴書の深い渓谷があり
背には広大な平原に浮かぶ小さな泉で
全裸の二次元美少女が頬を赤らめ股を洗っていた
俺は耳を澄ませた
屋根を支える建材は少なく
反対に降り始める肉欲の雨が磯野野球やろうぜと滴り落ちる
しかし俺は耳を澄ませた
そこには誰の叱責もなく 誰のあえぎも聴こえはしない

俺は履歴書の職歴欄に
真新しいボールペンのインクで改ざんした経歴を追加した
多少の不正くらいご先祖さまも目こぼししてくださるに違いない
完成した履歴書は多少改造されどやはり俺の生きた道だった
思いっきり息を吹きかけると
その二枚折りの人生はぺらりと軽薄な音を立て浮き上がり屋根となって
浮き上がった一瞬に詰め込んだなけなしの肯定は細い柱となった
屋根には補修しきれない空白期間の穴が寒々しく穿たれてあった
見下ろせばただの暗闇でしかないが
しかしそれは下から見あげれば時折星空が見えるのだった

クリアファイルに何度目かの新しい住まいを差し込んだあとで
そんなもんだ人生なんてと
よく分からない事をそう呟いてから
その意味について改めて俺は考え始めた

2013年6月12日水曜日

剃髪の夢(四)



べつに出家したいわけじゃない




空々しく
舎利禮文や般若心経を朝な夕なに唱え
カラスや野良猫に
自分が出したゴミ袋をむざんに破られ
使用済みのティッシュやケーブルテレビの督促状を
路上にばら撒かれても
いいですね
生きてますねと
ほんにゃり笑えるよう剃髪したい

剃り落とした生臭い髪には
さだめて甘苦いあの我執や
破裂せぬまま枯れしぼんだ かつての憤怒が
俗世との名残を惜しんで
小椋佳バージョンの『俺たちの旅』を歌うだろう
夢の坂道は木の葉模様の石畳
でもふつうに畳の上で剃髪したい
切腹する時みたく白装束を纏いたい
使わないけど脇差とか腰に差していたい

剃髪した後はなるべく優しくありたい
パック詰めの豚こま肉に
がんばったねと声をかけ
サンマの蒲焼缶に手を合わせ
多少の涙をこぼしたり こぼさなかったり
それでいて
出されたものは綺麗にたいらげ
いただきますとごちそうさまの二つで
すべての罪をまぬがれて
まこと善くあったと胸を張りたい

剃髪した後はおだやかに生きたい
むかしの話を楽しみつつ語り
つらい記憶でさえ
そんな時代もあったねと
熱い玄米茶で口の粘膜を溶解させながら
角が鈍くなってゆく自分を
成長したと誉めてやりたい

でも
剃髪した次の朝は
きっと何かが寒い

頭が寒い
とかいった鬆の入ったオチじゃなく
枯れた大根みたいにスカスカになっているんだ
脳みそを煮凝らせた あのやかましき日々の
何もかもが遠くなって
ふわふわとその辺を漂うだけの
抽象画みたいな景色のなかで
真っ白になって暮らしてゆくんだ
ちょっとずつ
ちょっとずつ誰や何やに手を振りながら
自分じゃそれに気づきもしないで



南無帰依仏 南無帰依法
剃るべきか 剃らざるべきか
そるべ ゆらゆらとそるべ
釈尊よ
どうかお教えください


『――縁なき衆生よ 
 諦めたらそこで試合終了ですよ』


安西先生!

2013年4月23日火曜日

少年ジャンプ



目の前に河が流れている
水かさのある
急流の河だ
茶色く薄汚れた水だ


河の向こうで誰かが見ている
手を振るわけでもなく
ただこちらを見ている
顔がない


河の向こうで鶯が鳴いている
森では桃色の花もちらほら見える
河の向こうには
春が来ている


なんとなく向こうへ行きたいので
橋を探そうとした
川上へ行こうと
急流の河沿いを
のぼろうとした


川上の方を眺めると
河なんて流れてなかった
目の前には河なんてなかった
ちょっとだけ深い
溝があるだけだった


納得して
それを認めた
それを認めたあとで
家に帰った
そして少しだけ眠った

2013年4月17日水曜日

豆腐

針供養を伝えるニュースで 
使い古しの針に供ぜられる豆腐の映像を見ていると 
急に豆腐が恋しくなって 
スーパーで鰯の丸干しのついでに絹ごし豆腐を一丁買ってきた 


白くやわっこい肌がずたずたと針の山にされるテレビの様子に 
つい痛々しく可哀想な気持ちになってしまったのは 
俺の心のつくりが豆腐だからだろうか 


大豆で出来た甘い乳は 
顔面が地すべりするほど苦いニガリを加えられ 
凝り固まって豆腐となるわけだが 
固まるといったって鉄筋コンクリート並に固まる訳でもなく 
豆腐はまあ最後まで豆腐である 
いいとこ身が締まるのも高野山までだ 


豆腐と針はまるで似ても似つかぬもの同士であるし 
針にしてみたらこれ以上仕事のしやすい相手はいないだろう 
折れた針を慰めるのに打ってつけのかませ犬である訳で 
針供養とはよくしたものだ 


しかし豆腐は脆いが 
それは哀れむべき弱さではないのかもしれない 
その脆さ柔さは逆に 
強靭であるとも言い換える事ができるのではないか 
絹ごしなんかの柔さは尋常でないが 
それも尋常ならざるスルー能力 
泰然自若な柔さなのかもしれない  


針の束に身を貫かれながらも 
「うむ」 
と軽く頷いて見せてこそ本物の豆腐 
それが一人前の豆腐なのだ 
そう考えると俺は豆腐としてまだまだ半人前 
甘ちゃんの豆腐なのだ 


よし俺はこれから胸を張って 
豆腐道を生きていこうじゃないか 
とりあえず始めに 
買ったばかりの絹ごしを冷蔵庫に移そうとして 
床に落とした件について 
「うむ」 
と頷いてみた 
わが豆腐道の輝かしい第一歩だ