2012年1月26日木曜日

少年ジューシー


僕の惑星は健康な呼吸を長く忘れて
大気層を放ったまま地表ばかりが立派になって
正しい自転の速度ばかりに気を払っている

僕という一人称が変転を繰り返した
忌まわしくまた懐かしい
遥かなカンブリア時代をそのままに
僕の惑星のマグマは今も
硬い地表の底で対流を続けている

そしてそれはたまにあふれ出しては僕を困らせる
僕の惑星の地表を幼いマグマで覆ってしまう
僕は呼吸を思い出して苦しくなってしまう

少年ジューシー
君は僕の卵の中身
君は僕に人懐こく声をかけて
僕をカンブリアのかつての動乱へと振り向かせる

少年ジューシー
僕は君への挨拶の仕方をしらない
だからいつも悪態をついては
僕からあふれ出た君を惑星の外へ放り出す

おっちょこちょいの少年ジューシー
猪突猛進の少年ジューシー
先走りの少年ジューシー

僕の惑星はいつも君を放逐してきた
僕の平静な地平を脅かす厄介者として
でも君のしつこさは僕の惑星が白亜紀になっても
氷河期を迎えてもいつまでも止む気配がない

少年ジューシー
マグマの君をいかに放り出すかの算段はやめだ
そろそろ君と話をしよう

君を僕の硬い地表に迎えよう
君が僕の惑星の新しい海となるなら
それでいい

少年ジューシー
もういちどカンブリアの話をしてくれよ
幼くてちょっぴり莫迦で
ひたむきだったあの頃の

2012年1月25日水曜日

僕と菅原道真公


学問の神様である
菅原道真公を祀った神社が
僕の住む町にあって

僕は幼い頃から
道真公の庭とも言えるそこで
遊び育った

その神社は名前は
そのまんま
菅原神社

道真公が京から放逐されて
大宰府への苦難の旅の途中
一夜を宿を求めて農家に訪れた折

公を一度は受け入れたものの
そこの農民が後難を恐れて
その夜 鶏を無理やりに鳴かせた

そして朝が来たのでもう出ていけと
公らを家から追い出したのだが
後に祟り神・天神さまとなった道真公に
恐れをなした農民が
祟りが起こらぬよう建てた神社だった

そんな情けないエピソードを持つ神社ではあるが
幼い僕がそんな話や
天神さまの祟りなど知る由もなく
結構不届きな所業を働いたりした

神社の敷地内の林で
友達のモデルガンの撃ち合いをしたり
堀のように神社を囲む池で
鯉を釣ったりもした

そのたびに宮司のおっさんから
ひどく怒られたりしたが
僕はめげずに天神さまの庭で
遊び放題あそんだ

そんな感じで
僕は成長し
中学三年生になった

その日は友達の瀬良野くんと
やっぱり神社で遊んでいた
池を渡す橋の欄干の上に立ち
バランスをとりながら歩いていくという
まあ馬鹿な遊びだ

瀬良野くんがうまいこと欄干を渡り終え
さて僕のばんと欄干に足をのせた時
僕は欄干の丸みに足を滑らせて
どっぽんと池に落っこちてしまった

けたけた笑う瀬良野くん
僕はずぶぬれの泥だらけになってしまった
池をぐっぽぐっぽと歩いて上がると
あらわになった僕の姿は
真っ黒でそれはひどいものだった

ああこんなじゃ家に帰れんばいと
僕が困っていると瀬良野くんは
ああ あすこに奇麗な池があるけん
そこで洗うたらええっちゃ
と神社の脇にある小さな池を指差した

「道真公御手洗の池」
小さな立看板にそう示された池は小さくて
たしかに奇麗な水が張られていた

これはいいやと
僕はその池にどぷんと浸かり
まるでプールで遊ぶように池の水ではしゃぎながら
体についた泥を落とした

その時
こら!なんしようとやこのわるそぼうず(注:いたずら小僧を意味する方言)どもが!
と おそらくこの池の管理をしていると思われるおっさんから
こっぴどく怒られてしまった

天神さまの罰が当たってもしらんぞ!
さあはよ池から出ていきやい!
おっさんの怒鳴り声を背中で聞きながら
瀬良野くんと僕は飛び出すように池を立ち去った

だがその時も僕は
天神さまの罰 なんてものを恐れたりはしなかった
そんな非科学的なものがあるはずがないと
ほとんど高を括っていた

そんな事件があった事も忘れるくらい日々が過ぎた頃
僕は受験勉強に向かわねばならない季節を迎えていた
大好きな女の子の由希ちゃんと同じ高校に入りたい
なんて野望を持ちながら
できたら由希ちゃんと一緒に自転車通学したい
なんて夢を遊ばせながら

だがそんな時
夢想にふける僕に
過酷とも言える
衝撃的な事実が突きつけられた

僕は馬鹿だった

中学三年生にもなってbe動詞すらも満足に知らない
数学では担当の教師が嫌いだったせいか
関数なんて 何それ?って具合に

僕は馬鹿だった

由希ちゃんの志望する高校は
僕の偏差値の15も上の高校
担任の教師から
おまえの意気は買うが 現実を見ろ
と諭され


ああ!
菅原道真公!

僕は馬鹿でありました
僕が馬鹿でありました

森でサバイバルゲームなんて
池で鯉釣りなんて
さらに公のお手を洗った池でプール遊びなんて

ああ!
菅原道真公!

僕を許しておくんなまし
馬鹿な僕をお助けくださりませ

僕は毎晩道真公に祈りをささげた
道真公 道真公
ああ道真公
おお道真公

僕は毛嫌いしていた学習塾に通うことも決め
悪あがきとも言える戦いを始める決心をした
由希ちゃん待ってておくれ
僕はがんばるからね と

道真公の手助け
とも呼べないくらい緩やかに
僕の偏差値はよれよれと上昇していった
関数も勉強した
be動詞だって知ってる

しかし僕の努力もむなしく
担任の教師は姿勢を崩さなかった
おまえの最近の頑張りは認める でもな・・

由希ちゃんの笑顔が遠のいてゆく
ああ憧れの自転車通学よ
僕は涙を枕に吸わせむせび泣いた

結局僕は志望をワンランク落として
八割がたはいけると思われる高校を受けることにした
由希ちゃんを思うハートを
ズキズキと傷ませながら

受験当日
現実感のなさにふわふわとしながら
出発の準備をする僕に
とおるちゃん 受験がんばってな
これやるけん絶対合格やけの と
常日頃僕を可愛がってくれる祖父が
僕にひとつのお守り袋を手渡してくれた


学業身守
大宰府天満宮


うわあ

城代家老の反逆


本日も殿の城は堅固でござる
幾重にも取り囲む敵味方を寄せ付け申さぬ
この城はまっこと堅固でござる
この城を殿から任せられておるこの拙者
面はゆくもござるが
まっこと忠義者でござって
日夜殿の御為 城の防衛に奔走してござる
だから本日も拙者
天守閣から城を見下ろし見回りでござる
番兵どもは槍・矛の手入れに余念がなく
太いかんぬきが差された門は堅く閉ざされ
城壁は絶壁の如く高うござって
堀は深く張り巡らされ
何ぴとたりとも侵入でき申さぬ

この城は殿を守る為にあり申す
拙者はこの城を守る為に生き申す
然れども拙者ちかごろ考えてござる
この城を守ることがまっこと
殿の御為になるのかと
殿は本日なにをなされてござるかと言えば
朝も遅くに もそもそと起きられ飯を食い
雪隠にお隠れになり御居眠り
そして昼はなんと春画を眺めて皮つむり
夜にはごろりと横になられ
深更まで さもつまらなそうに
ぐうたらとされておられる
果たして拙者の守るこの城は
まっこと殿の御為になるのでござろうか
拙者は面はゆくも忠義者ゆえ
ここは敢えて叛臣の汚名を着ても
殿に実りある生を全うされて頂きとうござる
拙者は番兵どもに酒を勧めに行き申す
固辞する者等には城代命令で
無理矢理にでも酒を飲ませ
閉ざされた門はかんぬき抜き放ち
掘割には土砂をかけて埋め立ててござる
而して拙者は天守に登り
遠眼鏡で敵城を様子を観察し申す
敵が城から軍勢を率いて出陣でござる!
その夥しい軍勢が殿の城を取り囲んでござる!
拙者の思惑どおり
番兵は酔いつぶれて役に立ち申さぬ
門はかんぬきが抜かれて簡単に開き申す
堀はすっかり埋め立てられて
敵勢は易々と城に攻め入ってござる
拙者は殿の意に背いた事の自責に唸りながら
ひとり天守に篭り敵が殺到するのを待ち受け候
この叛臣、一命を賭してこの罰を受け申す
そうして拙者は一番乗りした一人の敵将と対面し申した
なんと女性(にょしょう)でござった
拙者は一目でその女性に恋慕いたし候
だがそれは実りのない恋でござる
躊躇いもなくその女性は刀を振り下ろし
拙者の首は胴体とおさらばさらばでござる

かくしてこの城はその女性のものとなり申した
殿は女性の虜となり申してござる
新しき城の主となった女性は
この城を破却させ
なんと街に整備してしまい申した
城を守っていた番兵どもは
旅商となって各地の城や街へ旅立ち申した
街では艶やかな遊郭が出来申して
日夜通りがかる男を誘ってござる
街の至るところには
木が植えられ花が植えられ
女性の城はすっかり華やいだ街になってござる
女性の虜になっておしまいになられた殿も
最初はおいたわしやと拙者も嘆き候えど
なんとその虜の暮らしに満足なされ
女性の元に赴いては
仲睦まじゅう暮らされてござる

首だけになった拙者は
これで良しと思ってござる
重い荷の乗った肩も無くなって
すっかり軽くもなったので
拙者ははその軽さのままで天まで昇り申す
遠ざかってゆく華やいだ
女性と殿の艶やかな街を見下ろしながら
拙者は満足に成仏してござる
天晴れでござる!

兄の土


兄は三十年
土を練り続けた


その三十年間
兄は土を練ること以外
何もしなかった


これは表現ではなく
まさに一切
何もしなかった


兄は三十年
一心不乱に
ただ土を練り続けた


その三十年
千変万化する兄の土を見て
私は大きくなった


三十年のあいだに
兄の土はひどく醜くなり
稀にこの上なく美しくなった


そして三十年経って
兄はひとつの
いびつな水差しを作り上げた


父はそれを抱えて
方々へ売り歩いたが
どこに持っていっても
値がつく事はなかった


今その水差しは
我が家の食卓に据えられている


母は嬉々として
毎朝水差しの水を替えている


そして昨日
兄はまた土を練り始めた


やはりそれ以外の事は
一切何もせず
ただ一心不乱に
兄は土を練っている


私は兄の土を見ている
次の三十年のあいだ
千変万化する
その土を

柿くえば


十一月の病室で
母が僕に柿を切ってくれている

僕は柿があまり好きではないのだけど
そのことは言わずに
ぬるぬるとした一切れの果実を齧っている

ふと見ると
母の目に一杯の涙が溜まっていた
彼女は黙ったまま柿を口にする

暮れかけの陽の光が
蛍光灯の落ちた部屋を柿色に染めていて

ああ 僕は死ぬのだな
なんだか知らないがそう直感して

せめて言うべきことは
いま言っておこうと思い

母さん今までずっとありがとう
父さんとは仲良くしてよ

しみじみとそう言うと
母は今まで見たこともないような珍妙な顔をした

は?
あんたいきなり何言いよるん?

いや 母さん泣いとるやん
こういう時は泣いたらいけんのやないんね?

母は僕が何を思っているのか感づいたらしく
次いで自分の目を拭った指を見てから吹きだした

あくび!
あ・く・び よ
昨日録り貯めたビデオずっと見とって寝らんかったけ
もう眠とうてたまらんのよ
あんたは何を勘違いしよんね


あ そう


僕は
なんだあと安心していいのか
紛らわしい真似せんでくれと怒っていいのか分からなくなって
仏頂面で柿を一気に頬張った

向かいのベッドのおじさんが
堪らずにくつくつ笑い出した

柿色の病室に蛍光灯が点って夕食のアナウンスが流れる
僕は嫌いなはずの柿を一個分も食べてしまって
胸がいっぱいのまま夕食の麻婆豆腐を平らげた

深夜、自宅特急に乗って


僕が小学校高学年になると父と母はもう同じ部屋では眠らなかった
それまでたびたび夜中に聴こえた両親のいさかいの声がなくなったことを
喜ぶべきなのか悲しむべきなのか僕にはわからなかった


二段ベッドの下で眠る兄がまた僕の寝台を蹴り上げてくる
いくら文句を言っても兄はそれをやめようとはしないので僕ももう諦めてしまって
ごすんごすんと僕を揺らす兄の足に一定のリズムを期待しながら
幼い僕には膨大な夜の時間をひとりもてあます


子供の頃の僕にとって深夜は内も外も等しく暗かった
だからその暗い空間にはまだ僕の空想を詰め込むだけの余裕がたっぷりとあった
僕はこの4DKの築30年の家が音もなく走り出す空想に包まれて眠りにつく


モアイ像の立ち並ぶイースター島やペンギンのすむ南極に向かって
僕の家はゆっくりと見慣れた景色を離れて滑りだす
そしてスピードをぐんぐんと上げてゆく
真っ暗な窓の向こうに吹き飛んでゆく紺色の町を映し出しながら
僕はここではない見知らぬ場所へとベッドにからだを横たえながら進んでゆく


日焼けした父の逞しい両腕に抱きかかえられて眠った幸せな記憶を呼び起こして
この家は太平洋の大海原を飛んでゆく 眠りにつく父と母 兄を乗せて
目が覚めたらモアイ像やペンギンに囲まれて皆びっくりするだろうな
なんてひとりでにやついて次の日のことなんて全部わすれて
この家はすごいスピードで夜の闇を走ってゆく



現在兄は遠くで自分の生活を送っている 父と母はいささか年老いた
兄に毎夜蹴り上げられた二段ベッドは僕が中学生になった時に壊して捨てた
あの住み慣れた4DKの築30年の家も今は駐車場になってしまった


深夜が暗闇をもてあました領域であった頃はもう遠く
僕は昼と地続きになった夜をひとり過ごす
子供の頃の意味においての未知の領域はもうない
イースター島も南極も夢と同時に現実の匂いが常に付きまとうようになった
それがかなしいことだとは思わない 僕は大人になったのだから


眠りにつく時ふと 幼いころ空想した自宅特急を思い出す
もう長い間思い出すことすらなかった小さな空想に身を任せてみる


向かう先はイースター島でも南極でもない
そこに向かってこの部屋は音もなく見慣れた風景を離れてゆく
ぐんぐんとスピードを上げて
紺色の現実を吹き飛ばして

2012年1月24日火曜日

ゼロへの跳躍


1という数字の断崖に爪先だけ出して
痛みはonとoffの切替でしかないという前提で
ぼくはいま立っている 跪かないというただ一つの理由をもって


朝 ぼくの戦いは静かに始まっている
それは始まっていたという過去形を認めることから始まる
ぼくは煙草を燻らせながら1と0の空隙を静かに目測する


運命の仕掛けやひとの去来 社会との齟齬が朝の陽に透かされる
それらを分厚い麻袋の中に突っ込み ひもで口をきつく縛る
いま必要なのはひとつの詐術だ 凡百でも鳩を消す手品師にぼくはなりたい


1と0のあいだに神は住まない 今ぼくが居るのは夜でも昼でもなく朝だ
まっさらな一日の始まりだ 切断された昨日を見送る
そこを越えると美しい街がある 見た事のない色の空と雲 豊かな森がある


1という断崖に爪先だけ出して
痛みはonとoffの切替でしかないという前提で
ぼくはいま立っている
大きく助走をつけ 跳ぶ というただ一つの理由をもって

やるきがない


やるきがない
やるきはないよ
さいしょから
だってすーはーいきしてるだけでもう
くたびれちゃって
としをかぞえるても
おやゆびひとつですませたい

やるきがないから
ひらがなさ
ふにゅふにゅしたいね
かたかなはしゃきしゃきしてて
おもいうかべるだけで
もうおでこがつんつんいたいのさ
かんじもいとくずにして
とうにごみばこに ぽい

やるきはないよ
でもすこしぐらいはやってみたかったり
せめておもうだけ 
のうみそのしわの
いっぽんだけでもつかいたい
たとえばー
にっぽんnoこrekらh
もうだめ

ああ~
となりのいぬがねそべってら

空とデスマスク


急流の河の中洲に
ひっかかっている暗い時代に
白い大きな布をかぶせ
男が空の絵を描いている


男が筆を次々に走らせると
それは次第に
若くして死んでいった
少年のデスマスクとなった


少年の鼻梁の陰には
不思議と男の所有しない色がにじみ
少年の白い両瞳のなかには
捉えられない空が渦を巻いていた


男は少年の瞳のなかに
鳥を見つけられない
雲を見つけられない
ただ深く寒く しかし青い空
空だった


少年の白い頬に陰が差す
それは男自身の影だったのか
上空に雲はないので
男は一旦少年から遠ざかると
一時河の濁流に視線を投げて煙草を吸った


男にとって
少年はとうに失われた
だから少年の白い瞳には
男の姿が映ることはなかった


河の中洲で
男はひっかかった暗い時代を過ぎた
男は布を引き剥がした
河の水で描いた 空を


その下には
しなだれることのない
ひなげしの花が咲いていた


男は空を仰ぎ見た
やはりそこには雲はなく
鳥は飛ばなかった
しかし果てなく深く青い 空
空だった




なつのはだか


こむぎいろが
ならべたうでに
そそがれて

うたがいもない
せかいのはだかに
ぼくたちはほうりだされる

うみ!
ずるいしかたで
ぼくたちをてまねくよ!

そら!
だれもいないようなそぶりで
ぼくたちをみているよ!

なにも
なにもない
すべてがはだか

ぼくたちも
うみも
そらも
すなも
せかいさえも

なのに
どうして
しあわせなのだろう

なつの
やけた
てのひらのうえで

岡田屋の憂鬱


おだやか

おだやか


おだやかな午後のひととき

おだやかにロイヤルミルクティー

おだやかに角砂糖いっこ

おだやかな


おだやかな今日の訃報

おだやかな政治スキャンダル

おだやか

おだやかな日々


おだやかな

おだやかに欲情

おだやかに三回

おだやかな家族計画

おだやかに少子化対策


おだやか

おだやかにご近所トラブル

おだやかに引越し引越しさっさと引越し

おだやか

おだやか・・


おだやかに隣人を殺害

おだやかに不法投棄

おだやかに動物虐待

おだやかに領海侵犯

おだやかに戦争は外交の一手段

おだやかに・・


おだやか

おだやかな

おだやかな人生

おだやかな


おだやか

おだやか

おだやかな

おだやかなゲシュタルト崩壊

おだやかに


おだやか

おだやかなおだやか

おだやかなおだやかにはもう飽きた

おだやかなもうおだやかは結構

おだやかなもううんざりだって言ってんだろ

おだやかおだやかおだやかうわなにするやめrたkど@kd。
おだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやかおだやか
おだやかおだやかおだやかおだやかおだやか
おだやかおだやかおだやかおだやか
おだやかおだやかおだやか
おだやか


おだやか

おだやかな

おだやかな

おだやかな死

おだやかな

おだやかなあの人のあのおだやかな顔を見てあげてください

おだやかな墓

モンシロチョウが飛んでいる

おだやかに

 

厚揚げに紅茶


日曜日の午後は
食卓に電気も点けず
窓から差し込む陽の光だけで
じゅうぶん明るい

ひどく遅い目覚めに
僕はお腹がすいていたので
冷蔵庫のなかから厚切りのパンを取り出すと
黄色の年代物のトースターにつっこむ

いつもの席で
日曜日のいつものステテコ姿で
父がTVのゴルフ中継を見ている
いつものように
のっそりと煙草を吸っている

僕は紅茶を淹れる
醤油差しや味の素なんかが置かれた我が家の食卓には
甚だ不似合いな白磁の洒落たティーポットに茶葉を入れ
お湯を注ぐ

この紅茶はとティーポットは
ヨーロッパ旅行をした友人からの贈り物で
茶葉はれっきとしたアールグレイであるので
僕はちょっと優雅な心地だ

フロックコートを着たような気分で
左手の親指と人差し指と中指だけで
ティーポットを持ちあげると
目を細めながら
飲み口がグリーンで装飾された白いカップに紅い液体を注ぐ

うっとりと目を細め
薬指と小指を上げた状態でお茶を淹れる僕を
不審そうに父が一瞥した

チーンという音がしてパンが焼きあがった
僕はそれにハチミツをぺたぺたと塗る
ほんとはメイプルシロップがいいのだけど
そんなものはうちにはない

向かいの席に座る父が
ゆっくりと
でも力のこもったガッツポーズをした

なに?
と僕が訊くと

「宮里藍」
と父が答えた
ああ女子プロゴルフか

「バーディー」
またぼそりと言った
バーディーか よかったね

気を取りなおして
フロックコートの僕に戻ると
英国紳士の気分でトーストと紅茶をいただく

ありがたみのあるアールグレイに比べて
ハチミツトーストには遠慮がないので
紅茶のほとんどを残して僕はパンを平らげてしまった

そしてまた僕は
アールグレイのしっとりとした香気を楽しむ
執事(バトラー)の老人が来て
旦那さま 伯爵令嬢がお見えになられました
なんて耳元で囁きそうな気分で

女子ゴルフを見ていた父がのっそりと立ち上がった
てっきりトイレかと思ったが
彼はコンロの方に行くと何やらごそごそとしだした

そしてフロックコート姿でアールグレイを楽しむ僕の前に
ごと と深みのある器を置いた
厚揚げの煮物だった

「厚揚げ」
ぼそりと父
うん どう見ても厚揚げだ

「食っとけ」
そう言って父は
また女子ゴルフに戻っていった

これアールグレイだよ?

僕はこの一言で充分足りると思ったが
父はゴルフ中継に目を向けたまま
「食っとけ」
ぼそりと繰り返すだけだった

しぶしぶ僕は厚揚げを食べることにした
父はいつもは物静かだが怒らせると怖ろしい

そして僕は
左手には白いカップのアールグレイ
右手には塗り箸で厚揚げという
妙な格好になった

フロックコートの下ははかまに足袋
オールバックに決めてた頭にはちょんまげが生えた

厚揚げはうまかった
かみ締めるとしょうゆ味のおつゆが
じゅわーと染み出した

父がまた
ゆっくりと
力のこもったガッツポーズをした
宮里藍だった

またバーディ?
と僕が訊くと

「パー」
とぼそり答えた

宮里藍なら何でもいいらしい

2012年1月21日土曜日

このブログについて

このブログは2011年12月末に閉鎖された「超文系サイトTEXPO」に投稿された雨森名義のWEB詩集『Sonosheet』に掲載された詩作品をローカルやWEB上から蒐集し、放置するために設置されました。

アメリア・フォスターを追いかけて


君の手をにぎって
君の手をしっかりとにぎって
はなれないように
はなさないように
夏の街を歩く


妻はすぐに
自ら死のうとするから
僕は君の手をにぎって
しっかりとにぎって
はなれないように
はなさないように


妻の病は不治だという
その事実に
妻はすっかり絶望しきって
憔悴した顔で
あらぬ虚空をみつめて
蝉の声を聴いている


僕は大丈夫
きっとなおるよと
君を元気づけようとする


けど僕自身
もう何度も繰り返して
すっかり擦り切れてしまった
その言葉が
なんのちからも宿さないことに
打ちのめされながら


往来のはげしい車道に
今にも
飛び出していってしまいそうな
君の手をにぎって


しっかりと
はなれないように
にぎって


アメリア・フォスターを訪ねに
木々の陰にかくされながら
夏の街をあるいてゆく


アメリア・フォスター
彼女が何者なのか
僕はなにも知らない

アメリア・フォスター
名医なのか超能力者なのか
なにもしらない

だが妻を助ける一縷の希望として
僕はこの街まで
彼女を訪ねにやってきた

でもこの街に彼女はいなかった
いるのは拗ねた藪医者
エミリオ・ファースター

その豪華な診療所で
妻は息絶えた

血にまみれたその胸に
僕たちの赤ちゃんがいて
懸命におっぱいをせがんでいた

僕は石灰のかたまりになって
動かない君の姿をみつめていた



君の手をにぎって
君の手をしっかりとにぎって
はなれないように
はなさないように
夏の街を歩く



ただ僕のとなりを
憔悴しきった顔であるく
今すぐにでも
自ら死のうとするような
君の手を引いて


はなさないように
はなれないように
しっかりと手をにぎって
夏の街を歩いてゆく


アメリア・フォスターはどこにもいない
いるのはエイミー・パストや
アイザイア・フォッカー

彼女ではない者たちの
その先々で
妻は死んでしまう

僕が目を離したすきに
彼女はさまざまな姿で死に
僕を白い彫像にしてしまう

僕たちの赤ちゃんだけが
そこに生きている



君の手をにぎって
君の手をしっかりとにぎって


はなれないように
はなさないように
夏の街を歩く


これは夢なのか
あれが現実なのか
もう何もわからなくて


ただ君の手だけがあって
僕はそれを引いて
夏の街を歩く


はなれないように
はなされないように


君の手をにぎって
君の手をしっかりとにぎって
木々の陰にかくされながら
夏の街を歩いてゆく


アメリア・フォスターを訪ねて
アメリア・フォスターを追いかけて

五木家の面々


今日、弟の五郎が死んだ
突然の思いがけない死だった

太郎にいさんと三郎にいさんは
歯をくいしばって
きぃきぃと泣いている

二郎にいさんは
黙ったまんま
茶色の虚空を眺めている

弟たちは
それぞれの仕方で
きぃきぃと泣いている

四郎である僕は
末の弟の末吉から
五郎の死に様を聞き
やはり歯を食いしばって
きぃきぃと泣いた

五郎は突如噴霧された
毒ガスにやられ
よろよろになりながら
家へ帰ろうと必死に足をひきずり
しかし大きな網目の板につぶされ
息絶えたという

ああ!五郎よ!
聞かん坊で
目立ちたがり屋だった五郎!
兄たちにはちょっとばかり
反抗的ではあったが
弟たちにはいつもご飯を分けてあげた
優しい五郎!

四郎である僕は
五郎の弔い合戦に挑もうと決意した

お前が行って何になる
返り討ちにされるが落ちだ
五郎のことは返す返すも口惜しいが
ここは俺たち兄弟の行く末を考えよう
太郎にいさんが生真面目に言う

お前のちからじゃ到底無理だ
やつらには傷ひとつつけられはせん
ここは五郎のために
ひとつ皆でブルースでも歌おうじゃないか
二郎にいさんがクールに言う

やめてくれ四郎
もしおまえまで死んでしまったら
おれはどうすればいいんだ
きぃきぃ
三郎にいさんがすすり泣きながら言う

弟の六郎・七郎・八郎が
兄さんやめてくれ
やめてよ兄ちゃん
行かないでおにいちゃん
と僕をとめる

ただひとり
末の弟の末吉だけが
おにいちゃんがんばって!
あいつらを
ぜったおぶったおしてきてね!
ぼくおうえんするから!
と四郎である僕を励ます

僕は決意を固めた
おのれ弟の仇
おのれ
おぞましいけだものどもめ!

四郎である僕は
高いビルの上からやつらを眺めた

汚らわしいけだものどもは
汚らわしい姿でぐちゃぐちゃと
汚らわしく飯を食っている
僕は怒りに身を震わせた

この恨み
晴らさでおくべきか

僕は茶色にかがやく
自慢のきれいな翼をふるい
けだものたちに襲いかかった

四郎ー!
シロウ・・
兄ちゃん!
兄弟たちの声が聴こえる

みんな
僕は絶対に負けない
絶対に
勝ってくるからな!





      ぎゃー!
      ちょっちょゴキブリでた!
      お母さん殺虫剤!
      あー飛ぶな ばかー!
      うわっわっ!こっちくんな!
      お母さんはやく!
      はやくって!
      ああはい これ
      よっしゃ!
       (プシュー)





しろおぉぉぉぉぉぉ!
シロウ・・・
兄ちゃん!
おにいちゃぁん!




五木家は今日もお葬式
兄弟たちは
はるか遠くで
けだものと戦い朽ち果てた
優しく勇敢な
愛すべき兄弟
四郎の亡骸を思い
歯を食いしばって
きぃきぃと泣いた

おのれ

おのれ
けだものどもめ


この恨み
晴らさでおくべきか

五木家の兄弟たちは
食器棚の影で
冷蔵庫の裏で
流し台の下で
今日も
恨みに胸つぶされて
すすり泣く


きぃきぃ


きぃきぃ・・

鏡のなか


*上下から中央へと読み進めてください


世界は
古い鏡と
朝と



君が僕の似姿なのか
僕が君の似姿なのか


静かに
降りしきる
闇のなか
鏡がいとしげに
僕を呼ぶ

僕は
はっきりと
熱を維持しながら
それを君に
伝播させる手立てを
持たない

鏡の
こちら側に
何か大事な
きっと大切な
忘れものをして

黒髪の少女は
少しだけ
眉をひそめて
無言を抱きしめ
僕を
見つめる

白磁の顔に
漆黒の瞳が
深々と
鏡の奥に
沈んでいる

鏡の向こうの
君へと
飛翔する声は
ずっと
羽を折られている

小さな身じろぎや
ひとつの吐息が
この夜の卵の
殻をこわして
朝を
呼んでしまうから

僕は
無言のままで
幾度も幾度も
君へ語りかけてきた

太陽は
鏡のなかの
君と
僕との周りを
ぐるぐると廻り

朝を鏡像として
過ごし

夜には
僕は君を
君は僕を
見つめる

君のその瞳は
未孵化の言葉
僕を
うちふるわせる
予感をかかえ

しんしん

さびしく
共鳴している
君は
僕の

しかし
黒髪の少女は
何ひとつ
応えることをしない
ただ
無言のなか
かなしげに
眉をひそめて

そして
いつものように
朝の陽が
ひっそりと
でも乱暴な仕方で
鏡へ侵入すると
少女は霞んで
やがて消えていった

そして
鏡の前には
僕ひとりが
取り残される

鏡のなかへ
僕は入りたい
鏡を壊した
その先は
どうなっているのか
僕は知りたい

そんな願いを
無為に遊ばせながら
僕は
夜が訪れる
その度に
鏡の前に立った

そうやって
ただただ
少女を見つめて
心の中で
そっと語りかけ続けた
何日も
何年も?

それももう
数えることをやめ
いつものように
僕は鏡の前に立つ

今日は
どんな話をしよう 

鏡を
打ち壊す
その時まで

その後に
思い浮かぶ
がらんどうという
絶望から
脱げ出せる
その時まで


僕と
君は

ただ



見つめあう



ただ

きみは
わたしと


夢みて
その瞬間を
きみと出逢う
いや果てで
時の
遥かな

見つめあう
きみは
わたしと
朝が来て
そしてまた

ひどく恐れさせる
わたしを
大きな空洞が
想起される
でもそのあとに

選択させる
砕くことを
この鏡を
時折

欲求が
どう仕様もない
きみの感覚への
きみの声や

見つめあう
きみと
わたしは
疑惑は燃されて
朝には
そして

さがす
怯えつつ
自愛を陰を
わたしは
わたしの鏡像に
のこされた

きみは消えてしまう
夜が訪れると

音叉のように
遠くはなれた
予感する
ひそかに
ふたりの会話を

流しこみ
結ばれた心へと
発語を
戒められた
そして

立ち続ける
わたしは
鏡の前に
ながい腐乱のなか
夜の

亡霊にする
くらい
わたしを
その前に立ち続ける
または
というきみを
黒髪の少年
という存在が
この古い鏡

鏡にふれる
きみも
鏡にふれると
わたしが

わたしを見つめる
きみは
憂いを湛えて
肉体をそなえ
感覚できない
わたしの
鏡面のなかで
少年という



わたしがきみの似姿なのか
きみがわたしの似姿なのか



少年ジャンプ


目の前に河が流れている
水かさのある
急流の河だ
茶色く薄汚れた水だ


河の向こうで誰かが見ている
手を振るわけでもなく
ただこちらを見ている
顔がない


河の向こうで鶯が鳴いている
森では桃色の花もちらほらと見える
河の向こうには
春が来ている


なんとなく向こうへ行きたいので
橋を探そうとした
川上へ行こうと
急流の河沿いを
のぼろうとした


川上の方を眺めると
河なんて流れてなかった
目の前には河なんてなかった
ちょっとだけ深い
溝があるだけだった


納得して
それを認めた
それを認めたあとで
家に帰った
そして少しだけ眠った

背中


あなたの嘆きが見えない角度で
吹き付ける風があたりを暗くする
一本の細い糸で吊るされていた写実画は
風によって右へ左へ大きく揺れる
質素な額縁のなかの不変の真実
あなたを慰める一片の幻想もなしに
風はあなたの長い髪を千々に乱す
私の影へ招き入れたカケスの雛は
雨のなかをただ耐えている
私をあなたへ類似させるその黒い瞳は
それぞれのかたちへ行き着いた
風を見ている

雪を売る


ひとりの雪を売る男
雪山に登り
天秤棒に下げた
二つの大きな桶に
ざくざく

雪を掻き入れる


ひとりの雪を売る男
大量の雪がぶら下がる
重い天秤棒をかついで
はるか南の町に向かう


道中雪は溶けてゆく
雪は水となって
しとしとと
桶からしたたり落ちる
男の通った跡には
小さな水たまり
喉を潤しに
雀がやってくる


ひとりの雪を売る男
南の町の往来で雪を売る
二つの桶のなかで
小さくなった雪を
人々は物珍しげに眺め
また触れ
そして通り過ぎてゆく


ひとりの雪を売る男
桶からしとしとと
したたり落ちる雫を見つめ
雪の涼気に触れては
通り過ぎる人々を見つめ
紙巻煙草に火をつける


ひとりの雪を売る男
ひとりの女に雪を売る
病気の妹に
雪をたべさせたいの
そう言って
丼鉢を差し出す女に
男は雪をこんもりと盛り
その上に松の葉を飾ってやる


幾許(いくばく)かの銭を受け取り
ひとりの雪を売る男
礼をして去ってゆく
女の後姿を見つめる
見つめてから
また紙巻煙草に火をつける


ひとりの雪を売る男
残りの雪ももう僅か
濡れた桶の抱えると
町行く人々に
溶けかけた雪を
盛大にぶちまける


ひゃっ
わあっ
という人々の声 また声に
高く哄笑を飛ばして
男は町を去ってゆく


ひとりの雪を売る男
雪山へ帰る


あの山で
深々と降る積もる雪は


桶のなかで溶けてゆく
あの山の雪は


男の歳月
そのままなので


ひとりの雪を売る男
ひっひっひ

笑う


泣く以外には
笑うしか
なかったので


ひっひっひ

苦しい音を発てる


ひとりの
雪を売る男
雪山で桶に雪を掻き込む


そして
ふたたび南の町へ向け
歩き出す


雪のように積み重なる
男の歳月を溶かすために


虚無に満ちた人生を
笑い飛ばすために

僕のうんこドラゴン


これ うんこやな
どうみてもドラゴンには見えんし

クラス委員のオバタ君がそう言ってから
僕の描いたドラゴンは
なんとうんこになってしまった!

秋口になって年に一度の体育祭が開かれる頃
僕たちの二年二組のための
クラスだけの応援旗をつくろうという話がもちあがった

そこで旗のデザインを任されたのが僕だった
美術の成績がわりと良くて
描いた絵が学校の玄関になんか飾られたりする僕だった

僕はほとんど喜色満面でこの話を受け
自信に満ち満ちてこの応援旗のデザインをかんがえた

すぐにドラゴンを描こうと思いついた
秋空の中を縦横無尽に駆け巡り
首をもたげてかっこよくうねるドラゴンだ

あたまの中でかっこよくとぐろを巻くドラゴンを
僕はそのまま絵にしようと思い
大きな布に絵の具を塗りたくった

中学校の技術室のなかで僕は放課後を殆ど缶詰めになって
ドラゴンを描くことに夢中になった
ドラゴンは頭からゆっくりと白い布に姿を見せ
少しずつその威風をあらわにした

一週間が過ぎて ついに僕はドラゴンを完成させた
大きな布の上 空中にとぐろを巻くドラゴン
僕は鼻高々でクラスのみんなを呼び寄せた

どんな賞賛を浴びるだろうか
僕はワクワクしながら
賞賛の受け答えさえ用意するような有様で
まさかオバタくんから
これ うんこやな
なんて言われるなんて露ほども思っていなかった

僕の応援旗を一目見たオバタくんの発した
これ うんこやな
から僕のかっこいいドラゴンは
次第にうんこまみれになっていった

クラスのみんなが
口々にうんこうんこと唱えるので
おそるおそる僕も見直してみると
茶色の腹に小さな頭 そしてぐるぐるととぐろを巻く姿が
だんだんうんこに見えてきてしまった

健康な男の子のひねりだした
元気いっぱいのうんこだった

僕は意識のなかばまで皆に同調しそうになりながら
なんや!やったらお前らがかっこいいの書いたらいいやんか!
おれはもう知らんけな!
といわば逆ギレをして出て行ってしまった

僕のプライドはズタズタだった
それまでの自信も賞状なんか貰って喜んだ思い出も
みんな意味をなくしてしまっていた
おそらく人生初めての挫折だった

僕はそれから毎朝親に
頭が痛い、吐き気がするなどと言い訳をして
学校を休むようになった
いわゆる不登校というやつだ

昼もさしかかった布団のなかで
僕は描いたドラゴンを思い浮かべていた
みんながうんこうんこと言いだしてから
もう僕のドラゴンは普通のドラゴンには戻れなかった

きっと応援旗はクラスで一番絵がうまいワダ君あたりが引き継いで
かっこいいのを作り上げるんだろう
僕はあたまの中で見もしないワダ君の応援旗と
自分の描いたうんこドラゴンを比べてもだえ苦しんだ

体育祭の朝がやってきても僕は布団から出なかった
ワダ君のかっこいい応援旗が秋空にはためく光景なんて
見ていられたものじゃない
僕はほとんど呪詛していた
雨が降って中止になればいいのに
いや大地震でも起きて学校が潰れればいいんだと

次の日になって僕はのそのそと学校に登校した
まるで負け犬の気分だったが
クラスでは誰も僕のことも
うんこドラゴンのことも話題にしなかった
みんなは昨日の体育祭のことさえ忘れたように
今日の話をしている
僕はちくちくする心を上手にしまってから
みんなの話に加わっていった


それから数日経って
クラスに体育祭の写真が焼きあがったと知らせが入り
体育館に呼び出された
体育館の壁に何百枚もの写真が張り出されている
そこには僕の知らない体育祭の光景があった

クラスメートのマスダ君たちが僕を呼んでいる
行ってみると二年二組の集合写真が飾られていた
笑っているみんなの中央には
僕の描いた応援旗が秋空にはためいていた

ドラゴンはうんこドラゴンのまま
やっぱり健康な男の子のひねりだした
元気いっぱいのうんこだった

『まっちゃん』


小学校のときの同級生のまっちゃんと
僕は五年ぶりにぐうぜん出会った


小学校のときの同級生のまっちゃんと
僕は五年ぶりにぐうぜん大学病院のトイレで出会った


小学校のときの同級生のまっちゃんと
僕はぐうぜん大学病院の脳神経外科病棟のトイレで出会った


ふたりしてパジャマで
つんつるてんのあたまに申しわけのニットキャップをかぶって


ふたりして目もあわせずに
となりあった小便器にじょうろじょうろとおしっこを注ぎながら


ふたりともなあんにも言わないで
ただ小便器の排水口にめがけておしっこを飛ばしていた


じょうろじょうろ


僕はとなりでおしっこするまっちゃんに
どう声をかけたものかとずっとかんがえていた


まっちゃんのほうもまた となりが僕だと気づきながら
どう声をかけたものかと困っているようにみえた


場所が大学病院の 脳神経外科病棟で
さらにトイレでじょうろじょうろとおしっこの真っ最中だし


おまけにふたりしてパジャマで つんつるてんのあたまであるので
お!まっちゃんやん!えらいひさしぶりやなあ!なんて僕は言えなかった


まっちゃんのほうも
お!あめちゃん!どうしたんこんなとこで!なんて言いそうにはなかった


だからずっと なあんにも言わないまんまで
あたまが病気の僕たちはならんでおしっこをしていた


じょうろじょうろ


おしっこが終わったらどうしようとちょうろちょうろと僕が困っていると
まっちゃんのおしっこのほうが先にしとしとと終わった


まっちゃんはいそいそとちんちんをしまうと
僕のほうを見ることもなくいそいそとトイレを出て行った


トイレは僕だけになった
まだおしっこはちょうろちょうろと続いている


ああ そっかあ
僕は僕がちょっとだけほっとしていることに気がついた


それがいいのかもしれないな
僕はおしっこを垂らしながらちょうろちょうろとおもった


僕たちが元気に声をかけあうのは
あたまがふさふさになってふつうの服を着るときだ


たにんのそらに
使いなれないそんな言葉を僕はしとしとと思い浮かべていた

回転周期


クルクルと キリキリと 僕は回りつづける
回りつづけることに すっかり目を回してしまって
僕はあおい顔して 吐くのをこらえながら
クルクルと キリキリと やっぱり回りつづけて

回りを見渡すと みんなも僕と同じように
クルクルと キリキリと 回りつづけている
なんでみんなは 僕みたいに目を回さないのか
あおい顔して 吐くのをこらえてたりしないのか

僕はクルクル キリキリ 回りつづけながら
彼らをよく観察することにした 勢いよく回る視界に
入っては去ってゆく彼らを クルクル キリキリ回る彼らを
あおい顔して 吐くのをこらえながら 僕は見つめることにした

彼らは 僕みたいに目をうろうろさせることなく
クルクル キリキリ回りながら 彼らの真正面のある一点を見つめている
僕も彼らも回転してるから難しいけど 僕は彼らの視線を追ってみた
そこには世界があった なんと世界さえも回っていた

僕らが回りつづけるように 世界も回っていた
地球が回るように 太陽系が回るように 銀河が回るように
世界は僕らのまわりをまわりつづけていた
みんなは回りつづけながら 世界を見つめていた

愛が回っていた 経済が回っていた 戦争と平和が回っていた
充実した日々が回っていた 正義が回っていた 堕落が回っていた
快楽が 自虐が 喜びと悲しみが 平穏な毎日が 夢が
嘲笑が 殺意が 希望とあきらめが みんなみんな回っていた    

彼らが回転することに目を回してしまわないのは
彼らがひとりひとり見つめる世界の回転周期が 彼らのそれと同じだからだ
こらえきれず僕はついに吐いてしまった 
胃から吐き出されたものでさえも 僕のまわりをグルグル回っていた

それから僕は見つめることにした クルクル キリキリ回りながら
あおい顔をして 僕をまわる世界を 世界がまわる僕を見つめることにした
世界というその一言にも 数え切れない程のものが内包されている
僕はそのそれぞれの回転周期が知りたい 僕の回転周期と合うひとつを知りたい
 
クルクルと キリキリと 僕は回りつづける
回りつづけることに すっかり目を回してしまって
僕はあおい顔して 吐くのをこらえながら
クルクルと キリキリと やっぱり回りつづけている

少年


無言のなかで待ち続けているという 一つの世界風景の形態が
掠れた質問となって僕を訪れる

硬化した関係の殻のなかで 常に言葉は孵化しなかった
それが回答になってしまわぬように 僕は窓から亡霊を飛ばし続けた

否定と肯定が 希望と失望が
どれもまったく同じ色で 僕の白地図を塗りつぶしていった

わずかに小さく残り それも徐々に狭まってゆく真白い区画
僕はそこを住処として過ごした 饒舌に沈黙を保ちながら

世界は回り続けた
僕はその回転軸の傍らにいて ひどく他人事のように世界が回るのを見続けた

一旦迎え入れた時代は通り過ぎはしなかった
せわしない沈黙は 雑然としたこころを微速度撮影しながら
最後に虚無を纏おうとし しかし言葉の生存に敗れた

無言のなかで待ち続けているという 一つの世界風景の形態が
掠れた質問となって僕を訪れる

生身の言葉が殻を押しやぶろうとしていた
僕は 生きたかった

酸化


金気を帯びた血液が一瞬の旅を演じ 身体の夜の鈍いカーブで
俺を痛めつける頃もう俺には搾り出す喘ぎも無くなって安らか
に眠れるだろう それはもう必然と言える事でロカールの原則
に従いぶつかりあった俺の夢と現実が儚い相互交換を行って今
俺は第一次酩酊の墨壺にかけられて血液アイドリングの無様さ
に平衡感覚を裏切られ第二次酩酊の意識混濁の要ダイエットな
二の腕のなか一時期跳ねて喜ぶ子羊のダンスでスタンディング
オベーションここまで来れば人生の汁気も切っちまってカラカ
ラに乾いた喉もそのままで俺は一人タクラマカン砂漠ってなも
ので生きては帰れぬのキャッチフレーズもホリプロスカウトキ
ャラバンのアイドルの偽造された微笑にも吸い付けるというも
のだし ああ!真実は酸っぱいとまで言い切ってはなんとも溢
れ出す追憶の酢橘 常緑のまま葉っぱは今でもゆらゆらするの
に枯れかけの柿の葉の番いで大きく生っちまったその実をさて
俺はどうしよう

nirvana


心の突端に引っかかったまま
通り過ぎる事のない布切れのような白い空
感じられる全ての苦痛や快楽はそこに吸い取られ
湿った部屋の中へ枯死の時間を招き入れる

記憶は個別に芽吹いては咲き乱れ散っていった
鳥達はもう激しくは飛ばない その振幅も徐々に眠ってゆく
大きな安らぎがある 怖ろしい懈怠がある
失いながら もう二度とは得ることがないのでほっとしている

夕暮れが起き 夜が訪れても空は明度を上げ続ける
舌の乾く過去も喉を競り上がる未来もそこにない
世界は加法混色されてただ一つの色に染め上げられる
そこには結晶化した時間と永遠に孵らない一個の幸福な卵がある

僕たちの挽歌


意志のない肉がまた動き
僕達はまた冬の墓場から這い出てきては
方向をなくした朝を迎える

そしてモノトーンのコピーが
新たに一枚刷られる


僕達の希望は年老いた
僕達の明日は腐り掛けて異臭を放っている
僕達の昨日は語られながら死ぬほど退屈だ
そしてひとつ残された今日
僕達は偶然見つけた昔の財布のように
何も出てこないことを知りながら
それでも何度も逆さに振ってしまう
僕達の希望とはまさにそういうものだ
超能力番組を信じきった8歳の男の子のように
何一つ動かさず心に念じるだけで
なんとかここまで来れてしまった
それゆえに僕達は復讐を受けて
徐々に絶望へと追い込まれる
それは間違いなく僕達自身の企てによって
そして僕達の魂は座りの良い安い宿命に落ち着こうとする
宗教や哲学 または病理などが
それぞれの絶望に最適の寸法に僕達を裁断する
社会が僕達を問題視し または糾弾するなかを
発光塗料を重ね塗りした死を雨傘にかかげて
永遠に終わらないそれぞれの今日を僕達は歩いて行く

一歩


心の砂礫を欺いて
行かなくてはいけない海があって
不自由な記憶はそこに繋がれたまま
波打ち際で転がっている

思えばどこへも行く当てなどなかった
僕が硬い水で肺腑を満たすとき
溺死するより先になぜか生きだしていた

海は計算している
僕の愛した不遇で僕を割り切ろうと
それが丁度恋人の乳房のように柔いので
つい僕は浜辺でくつろぎ過ぎてしまった

心の砂礫を欺いて
僕はようやく盲いになれたのだ
潮風に焼かれた僕の目が暗い中空に瞬くとき
その幽かな光は
海原に漂う満ち足りた僕の死体を照らす

月の蜜


まあるい月が とろうりとろりと溶けだして
夜空を流れてゆくものだから

ああ もったいない と思った少女は
夜空に寄りそって流れた月を やさしくなめとった

あれ ずっと月って冷たいもんて思ってたのに
けっこう熱いんやね 舌やけどしそうやわ

少女は流れる月をぺろりぺろりとなめとりながら
すこしづつ すこしづつ飲みくだす

お月はん すっかりのうなってしもた
なんかまっくろうなあなぽこみたいや

月のぬけたまっくらな穴のなかから
時おり 小さな何かがぼうっと光るのを少女はみつけた

あれ いったいなんなんやろ
ようわからんけど きれいなあ 

きがつくとからだの中がぽかぽかとあたたかくなって
少女のからだは うすぼんやりと光りはじめた

するりするり 少女は自分のからだが何枚にもはがれてゆくのを感じた
ゆっくりと何重にも何重にも少女のからだは脱皮してゆく

月の穴のなかの光も 少女のからだが脱ぎおとされてゆくのにあわせ
ぼんやりぼんやりと光りながら 少女であったものに近づいていった

それは鳥のようにもみえたし 虫のようにもみえた
ぼんやりと でもうつくしく光るのをみながら少女ははっきりと思った

ああ あれはかげろう
あれは宇宙かげろうや

少女であったものは濡れた翅をゆっくりとひろげると
夜空のふかすつめたい風にさらす

ゆらりゆらり 優雅に翅をはためかすと宇宙かげろうは飛びたった
ふわふわと舞い ゆらりゆらりと風にのって

もういっぴきの宇宙かげろうはよろこぶようにくるりとまわる
月のむこうのかげろうの国 今ごろそこはきっと恋の季節だ

魔法少女と私


麗しい魔法少女の心のなか
その汚らわしい澄明のなかへ
私は出かけた
まるで酒のように滑稽な呪文で私をもてなし
ゼリービーンズのソファや
ピンクの水晶玉を煙とともに出現させながら
魔法少女はその観念をモザイクで分離させた状態で
自分と私とを恋愛へ変態させようとした
が不幸なことに彼女は栄光の八十年代が定めた
魔法少女は処女でいないと駄目ニョロ
という不動の掟に操られ
私へ
ピクマクピクマクドリリンパ
トリップトリップラリリンパ!
と素っ頓狂に叫ぶと
私を一匹のバター犬へと変えてしまった
私は犬の分際で存分に有り余った性欲を
魔法少女に注ぎ込んだ
そして熱狂の一時はあっと言う間に過ぎ
頬を赤らめ息を弾ませながら
魔法少女はまだ使用されていない
はちきれんばかりの私の一物を
恨めしそうに眺めながら小さく呪文を唱えた
( ゚Д゚)イッテヨシ
私は現実に
私の部屋に帰ってきていた
色々あったが魔法少女は可愛かったし
まあ良しとするかと寝台の上で人心地つけると
股間のたぎりを抑えきれず
私は夜の街の猥褻へと繰り出した
今夜の恋の相手となる
キュートな雌犬を捜すためにだ

ダブルシャムヘリックス


黙れ!!                (ねえねえ
化粧の色に嘲弄を隠して       (かわいさをうりにぼくをだまくらかして
寒風に飛びかう砂糖漬けのドグマ  (さむぞらにながれるあまあいれんあいか
終わった祭を繰り返す小鬼ども    (そういったりゅうこうをもとめるむすめさんたち
てめえ妄言の口は拳で塞げ      (おにいさんがきみたちをらぶまし~んにしてあげるよ
俺は殴る殴る殴る!!        (あたまなでなでしてあげるね
ぶちのめす蹴る唾を吐く!       (よかったらめーるあどれすもこうかんしようよ
そして数千年の油層から引き上げた (かみよのじだいからこいのうたはあるわけで
壊れた月にセムテックスを仕掛けて  (おにいさんはもうめろめろさ こうさんだよ
(暗い時の幕間に             (わあみんなそんなおしよせちゃだめだよ
(伸ばされる褐色の手          (おにいさんのぴーはひとつだけだぞうえへへ
(陰茎は灰となり海面へ撒かれ     (あ おにいさんぱいぷかっとされてたよまいったなあ
7                      (ぼんさんが
6                      (へを   
5                      (こいた
BOMB!!!              (ぷー

一次変態


あの巻雲の中に隠した
酸化し尽くした肯定を
新たなる風景を燃やす為
喪わなければならない
そして私の諦念が
饐えたる日々に浪費され尽くした時
燕よ 白濁の空を落とせ

神話


野球のルールを知らない少年が
河川敷を嘘だらけにして
そこにいた11人の仲間と
そしてその夥しい子供たちで
大人たちを皆殺しにする
口々に自分の名を唱えながら
撲り殺した大人たちの血で
少年たちは海を作った
そしてそれぞれ対になる
少女たちの身体を海に浮かべ
新たな大陸とした
少年たちはそこで数年を過ごし
悉く成長を拒んで死んでいった
ただ一人残った
野球のルールを知らない少年は
古ぼけたグローブを海に投げ捨て
涙する
少女たちは皆女になり老いていった
少年は永遠に少年のまま
長い時代を生き続け
新しい世界にむかって
たかく 口笛を鳴らし続けた


私は回想される誰か
誰かは回想する私を
私は回想する誰かを
誰かは回想される私
私は回想される誰か
私は回想される私の
回想する誰かの回想

下方螺旋


一般化された不幸の形容が
僕の個人的な悲劇を奪い去って
当て所のない憎悪は
5㎥の世界の中で崩落を始めている

次第に冷めていった太陽の
その穴倉へ帰ろうとする全ての風景
それはこの5㎥の世界の中心にやり場なく繋がれて
まるで飽きられた玩具のようだ

僕は僕の広大な幻想の内に
新たな地図を書き込み
その住人に成済ます

そこで僕の甘い不幸を普遍化させ
僅かに疼く反逆を硬質な青い仮面で抑圧して
いつか来る復讐を待ち受ける

そして時間への深い潜行の末帰りつく世界に
僕は自ら投獄した僕の生存を賽にして投げ込む


道行きの輪郭を得られぬままに
影のくずおれる季節のなか人が去る

自足を知らない空間の飢えへ時間は満ちて
置き去られた記憶の冴えが日々を腐す

僕の観念は霧に紛れ磁針を見失っている
立ち現われる孤立の幻影が僕を酷くおびやかす

同時に僕の外にある巨大な孤独の仮定が僕を慰める
単純な万有引力の証明 その果ての風景に霧は晴れる

俄かに時間が明るいと


俄かに時間が明るいと
かえって僕の内側は暗くなる
そこには星さえ住まないが
闇の彼方で空の白む気配がする
絶えず世界は生みたがるから
時にはげしい陣痛が
僕から喜びを奪ってしまう
僕はおおきな木陰のなか
いろいろなやり方で
流した涙を世界に還そうと企む

僕には尻尾が生えている


傾いていく風景の重さを
じっとてのひらで量って
右手に浮き出る軽い疲れ

終日を窓際で過ごし
子供の声に耳を塞いで
また粘り気ある夜がくる

労働が人を人にさせる
僕もかつては人だった
今僕には尻尾が生えている

けものにはけものなりの
安らぎはあるだろうし
まだ笑ってはいられる

ひかりの向うの森が
一瞬歪んで鳥が吐き出される
思いのほか大きな鳴き声

そろそろ
錆びた鎌をくわえて
木につながれたままの
明日をもぎに行こうか

背をかがめ
四つ這いになって
裸の尻もあらわなままで

L!FE


!!!!! !!! !!!!!!!!! !!!! !!!!
!! !!!! !!!!! !! !!!! !!!!!! !!

?
!!!
?
?
!
?
!
!!!!!!
??
!

??
?????
????????????
????????????

!

!!!!!?
??!!!!!!!!!
??????????
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!????!!?!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!??!!!!
!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! ?

!!









!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

!?!?!?!?!?!?!?!!?!?!?!?!?!?!?!
!?!?!?!?!?!?!?!!?!?!?!?!?!?!?!
!?!?!?!?!?!?!?!!?!?!?!?!?!?!?!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




?

?

!!!!

仰臥


      1

湿気が纏わり
いつか
麩菓子になった屈辱に
朝の裾の中身を
下から覗き見している
己で気付いた


      2

遅すぎる朝に
指先で弄ぶ
楽観と悲観で形成された
冷たい二重螺旋
その果てにある
予定された
清潔な
絶望

      3

かつて世界を
貪り過ぎた代償に
嗅ぐこと以外は禁じられ
薬品の異端性や
シーツの自若に
ひとつひとつ触れてゆく
これらにおいの固い外郭は
少しも肉体にうちとけず
室の空気に油が混じる頃
シャツを捲り上げ
むせ返る体臭を
ただひとつの拠り所として
今日を過ごす


      4

七十と五つ

十二月二十七日のデッドコピーが

明晰な雫となって

僕の傍らで滴り続ける


  ( 脳脊髄液の

  ( 詩的な

  ( 漏れ


      5

此処が
いつまでも
此処にならず
いまだ何処でもない
其処を
棲みかとし
凪いだ海に
肉体は
漂う

繰り返す


僕のため用意された
かなしみに座る

やがて奪われる全ての遠さが
僕に生きる意味を問いかける

昨日と同じ風景が
昨日と同じ仕方でまた暮れる

しかし時に僕をふと怯えさせる
不確かな明日の豊かさが

その奥に広がる暗い水平線が
僕を飲み込み溺れさせる

いつかは亡びるものたちに囲まれ
何度も今日を別れ 弔いながら

夜を悼む深い寛ぎの上に
覆いかぶさる温い陰

しかし僕は信じる
いつか肩に射す希望を

そして
既に死に阻まれながら

僕は繰り返すだろう
その繰り返しを

閉じた夜


目映さに飲まれ
窒息して
死ぬこともあるだろう

明るさは自侭に照らせば良い
だが僕は僕の取り分だけで満腹だ
小さなパンさえ食べ残している

この無形の鋳型に僕は鋳られ
あこがれのかたちに影は引かれた
そこは既に閉じた夜だ

引き摺り続け
いつかは千切れる
欲望も夢も乾いたままで

親指と人差し指で太陽を摘み
その弾力を確かめる
拒むように僕の眼は焦がされ

しかし振り返れば
そこは閉じた夜だ

温い寝台の上で
汗ばむ体を脱ぎ捨て
暗い方へと寝返りをうつ

まるで死のように
強く湧きあがる睡気


二人の間に雨は注がれて

傘のあいだで行き交う言葉は

流れに戸惑う魚になる


飛行機雲を弛ませて
空が呼吸する音を聴く
うつくしき今
赦しを乞う声もなく
私はただ生かされる

華やかに着飾った言葉のかげで
街が呟く厭世の声を聴く
うつくしき今
自らを暖める術もなく
私はただ上着を購う

時の背中におぶられた
河のかすかな寝息を聴く
うつくしき今
私はふと償いを思い出し
握った小石を投げられない

厳しくも明るい宿命のなか
少しだけ世界が素直さを取り戻す
うつくしき今
私はただ生かされて
ただ生かされることに甘んじる

無数の問い 無数の悔い
私は今
それをすべて捨てていい

ココア


小型の砂時計を
君の唇から落下してすぐの
湿気の濃い小箱に仕舞い込む

粘膜の壁に
唾液で遺書を引っ付けて
身投げした言葉どもが

神経の手網を空振りさせて
僕の蝸牛のくびれで詰まった

奴等ははらほらと零れ落ち
僕のパラボラはヒステリー
国道を引き摺るノイズを拾う

そうして少しずつ
酸素と窒素と二酸化炭素と
小さな発光ダイオードが
右側2列の数値をぱらぱら上げていく

8:41pm
が歯を食いしばる
僕の左踵は夜気を踏みしめたい

そういう諸事情を
宥めることもしないうちに
この沈黙を誰の唇にも触れていない
熱いココアに音を立てて混ぜ込んだら


という予想を尖らせた