雨の時間のなかを その気まぐれのように打たれていた
停滞し 立ち止まっては上昇し 天に放り上げられ
落下の日付が誤植されたカレンダーを おそるおそる覗いている
春のようだった 夏のようだった
秋のようだった 冬のようだった
その時々の季節で 彩色は滲んでは乾き 混色しては変容して
禁忌色と交接しては地の額縁のなかの絵を
恣意に依らず様々な色で濡らしていった
雨が静かに降り注ぐ 時間は激流のほとり
河原の石に腰掛けその流れを傍観する
カンバスは乾き もう筆を入れる余地は少ない
消すことのできない過失がまざまざと残り
完成されつつあった絵はもはや理想のものとは遠くはなれ
雨粒に浸されながらしかし滲みすらしないことに
もはやよろこびも かなしもない
地の額縁のなかに残された僅かな余白 それが全てであるように
季節の抱いた明かりを取ろうとして目を細め
そして長過ぎる回想の為に瞑られる
豪雨がやってくる 激流は河原を溢れ 男を呑み込みにやってくる
自らの全てだったカンバスを守ることもなく
男はただ逃げ惑い 誰構わず助けを乞う
それが最後の彩色となるももはや目は失われ
その彩りを見ることもかなわない
濁った流れが襲ってくる
男が最後に開いた言葉はなんだったか
怨嗟 悲嘆 諦念 哀願 そして憐憫
雨はそれらを洗い流さない
地の額縁は崩れた砂のなかから 色彩を浮かばせる
しかしすでに絵は男から離れた
天に投げ上げられた身は時間の流れに呑み込まれる
そして長く短かった雨は止んだ
激流を形作っていた河も一瞬で乾き果てた
しかしその最後の一滴に男はいた
男は天を見上げ 地を見渡した そして気付いた
自らの全てと思い描いた絵は
大地のほんの一角を彩ったにすぎなかった
自らの恣意に依らず描かれた絵は
しかし男の全てを記録したその絵は
極彩色に暮れゆく空の たったのひと欠片だった
余りに広すぎた人生の余白に男は悔やんだが
もう男にやり直す術は無かった
男の最後の一滴は天へと蒸発していった
空のかなたで積乱雲が増長する そのなかへ男は赴いた
一滴の 誰かを打つ雨となるために
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