2012年2月21日火曜日

雨の四連



雨の時間のなかを その気まぐれのように打たれていた
停滞し 立ち止まっては上昇し 天に放り上げられ
落下の日付が誤植されたカレンダーを おそるおそる覗いている
春のようだった 夏のようだった
秋のようだった 冬のようだった
その時々の季節で 彩色は滲んでは乾き 混色しては変容して
禁忌色と交接しては地の額縁のなかの絵を
恣意に依らず様々な色で濡らしていった



   
雨が静かに降り注ぐ 時間は激流のほとり
河原の石に腰掛けその流れを傍観する
カンバスは乾き もう筆を入れる余地は少ない
消すことのできない過失がまざまざと残り
完成されつつあった絵はもはや理想のものとは遠くはなれ
雨粒に浸されながらしかし滲みすらしないことに
もはやよろこびも かなしもない
地の額縁のなかに残された僅かな余白 それが全てであるように
季節の抱いた明かりを取ろうとして目を細め
そして長過ぎる回想の為に瞑られる 




豪雨がやってくる 激流は河原を溢れ 男を呑み込みにやってくる
自らの全てだったカンバスを守ることもなく
男はただ逃げ惑い 誰構わず助けを乞う
それが最後の彩色となるももはや目は失われ
その彩りを見ることもかなわない
濁った流れが襲ってくる
男が最後に開いた言葉はなんだったか
怨嗟 悲嘆 諦念 哀願 そして憐憫 
雨はそれらを洗い流さない
地の額縁は崩れた砂のなかから 色彩を浮かばせる
しかしすでに絵は男から離れた
天に投げ上げられた身は時間の流れに呑み込まれる




そして長く短かった雨は止んだ
激流を形作っていた河も一瞬で乾き果てた
しかしその最後の一滴に男はいた
男は天を見上げ 地を見渡した そして気付いた
自らの全てと思い描いた絵は
大地のほんの一角を彩ったにすぎなかった
自らの恣意に依らず描かれた絵は
しかし男の全てを記録したその絵は
極彩色に暮れゆく空の たったのひと欠片だった 
余りに広すぎた人生の余白に男は悔やんだが
もう男にやり直す術は無かった
男の最後の一滴は天へと蒸発していった
空のかなたで積乱雲が増長する そのなかへ男は赴いた
一滴の 誰かを打つ雨となるために
   

0 件のコメント:

コメントを投稿