2012年1月25日水曜日

兄の土


兄は三十年
土を練り続けた


その三十年間
兄は土を練ること以外
何もしなかった


これは表現ではなく
まさに一切
何もしなかった


兄は三十年
一心不乱に
ただ土を練り続けた


その三十年
千変万化する兄の土を見て
私は大きくなった


三十年のあいだに
兄の土はひどく醜くなり
稀にこの上なく美しくなった


そして三十年経って
兄はひとつの
いびつな水差しを作り上げた


父はそれを抱えて
方々へ売り歩いたが
どこに持っていっても
値がつく事はなかった


今その水差しは
我が家の食卓に据えられている


母は嬉々として
毎朝水差しの水を替えている


そして昨日
兄はまた土を練り始めた


やはりそれ以外の事は
一切何もせず
ただ一心不乱に
兄は土を練っている


私は兄の土を見ている
次の三十年のあいだ
千変万化する
その土を

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