2012年1月25日水曜日

柿くえば


十一月の病室で
母が僕に柿を切ってくれている

僕は柿があまり好きではないのだけど
そのことは言わずに
ぬるぬるとした一切れの果実を齧っている

ふと見ると
母の目に一杯の涙が溜まっていた
彼女は黙ったまま柿を口にする

暮れかけの陽の光が
蛍光灯の落ちた部屋を柿色に染めていて

ああ 僕は死ぬのだな
なんだか知らないがそう直感して

せめて言うべきことは
いま言っておこうと思い

母さん今までずっとありがとう
父さんとは仲良くしてよ

しみじみとそう言うと
母は今まで見たこともないような珍妙な顔をした

は?
あんたいきなり何言いよるん?

いや 母さん泣いとるやん
こういう時は泣いたらいけんのやないんね?

母は僕が何を思っているのか感づいたらしく
次いで自分の目を拭った指を見てから吹きだした

あくび!
あ・く・び よ
昨日録り貯めたビデオずっと見とって寝らんかったけ
もう眠とうてたまらんのよ
あんたは何を勘違いしよんね


あ そう


僕は
なんだあと安心していいのか
紛らわしい真似せんでくれと怒っていいのか分からなくなって
仏頂面で柿を一気に頬張った

向かいのベッドのおじさんが
堪らずにくつくつ笑い出した

柿色の病室に蛍光灯が点って夕食のアナウンスが流れる
僕は嫌いなはずの柿を一個分も食べてしまって
胸がいっぱいのまま夕食の麻婆豆腐を平らげた

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