十一月の病室で
母が僕に柿を切ってくれている
僕は柿があまり好きではないのだけど
そのことは言わずに
ぬるぬるとした一切れの果実を齧っている
ふと見ると
母の目に一杯の涙が溜まっていた
彼女は黙ったまま柿を口にする
暮れかけの陽の光が
蛍光灯の落ちた部屋を柿色に染めていて
ああ 僕は死ぬのだな
なんだか知らないがそう直感して
せめて言うべきことは
いま言っておこうと思い
母さん今までずっとありがとう
父さんとは仲良くしてよ
しみじみとそう言うと
母は今まで見たこともないような珍妙な顔をした
は?
あんたいきなり何言いよるん?
いや 母さん泣いとるやん
こういう時は泣いたらいけんのやないんね?
母は僕が何を思っているのか感づいたらしく
次いで自分の目を拭った指を見てから吹きだした
あくび!
あ・く・び よ
昨日録り貯めたビデオずっと見とって寝らんかったけ
もう眠とうてたまらんのよ
あんたは何を勘違いしよんね
あ そう
僕は
なんだあと安心していいのか
紛らわしい真似せんでくれと怒っていいのか分からなくなって
仏頂面で柿を一気に頬張った
向かいのベッドのおじさんが
堪らずにくつくつ笑い出した
柿色の病室に蛍光灯が点って夕食のアナウンスが流れる
僕は嫌いなはずの柿を一個分も食べてしまって
胸がいっぱいのまま夕食の麻婆豆腐を平らげた
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