2012年1月21日土曜日
雪を売る
ひとりの雪を売る男
雪山に登り
天秤棒に下げた
二つの大きな桶に
ざくざく
と
雪を掻き入れる
ひとりの雪を売る男
大量の雪がぶら下がる
重い天秤棒をかついで
はるか南の町に向かう
道中雪は溶けてゆく
雪は水となって
しとしとと
桶からしたたり落ちる
男の通った跡には
小さな水たまり
喉を潤しに
雀がやってくる
ひとりの雪を売る男
南の町の往来で雪を売る
二つの桶のなかで
小さくなった雪を
人々は物珍しげに眺め
また触れ
そして通り過ぎてゆく
ひとりの雪を売る男
桶からしとしとと
したたり落ちる雫を見つめ
雪の涼気に触れては
通り過ぎる人々を見つめ
紙巻煙草に火をつける
ひとりの雪を売る男
ひとりの女に雪を売る
病気の妹に
雪をたべさせたいの
そう言って
丼鉢を差し出す女に
男は雪をこんもりと盛り
その上に松の葉を飾ってやる
幾許(いくばく)かの銭を受け取り
ひとりの雪を売る男
礼をして去ってゆく
女の後姿を見つめる
見つめてから
また紙巻煙草に火をつける
ひとりの雪を売る男
残りの雪ももう僅か
濡れた桶の抱えると
町行く人々に
溶けかけた雪を
盛大にぶちまける
ひゃっ
わあっ
という人々の声 また声に
高く哄笑を飛ばして
男は町を去ってゆく
ひとりの雪を売る男
雪山へ帰る
あの山で
深々と降る積もる雪は
桶のなかで溶けてゆく
あの山の雪は
男の歳月
そのままなので
ひとりの雪を売る男
ひっひっひ
と
笑う
泣く以外には
笑うしか
なかったので
ひっひっひ
と
苦しい音を発てる
ひとりの
雪を売る男
雪山で桶に雪を掻き込む
そして
ふたたび南の町へ向け
歩き出す
雪のように積み重なる
男の歳月を溶かすために
虚無に満ちた人生を
笑い飛ばすために
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